気仙沼ニッティング

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人のぬくもりを感じる気仙沼のニット(仮訳)

2012年1月、御手洗瑞子氏は、「ほぼ日刊イトイ新聞」編集長の糸井重里氏から相談を受けた。

宮城県気仙沼市で、被災者の編み手を雇いオーダーメイドのカーディガンを手編みするプロジェクトのリーダーになってほしい、との依頼だった。

御手洗氏がブータンで観光開発の任務から日本に戻って来たのが2011年10月、その後コンサルティング会社に勤めていたところだった。正に、人生を変える決断を迫られたのだ。

当初、気持ちは複雑だったと彼女はいう。

「私は長期的に被災地復興に携わっていきたいと思っていたので、ちょうど良いタイミングでした。でも、躊躇もありました。一から物を作る仕事ですし、うまくいくかどうか未知の部分もあったので」と当時の心境を述べた。

「でも誰もが同じ気持ちだろうと思いました。突然震災が起こったわけですし、復興にむけて、誰もが未知のことにもチャレンジしていかなくてはいけない状況だと思いました」御手洗氏は心を決めた。

糸井氏との縁は、御手洗氏がブータン在住時にブログやツイッターを通して交流が始まったことがきっかけだった。糸井氏はブータンにも来訪している。

コンサルティング会社を辞め、糸井氏とともに「気仙沼ニッティングプロジェクト」を立ち上げた。昨年6月には、ニット事業について学ぶためアイルランドのアラン諸島へ飛んだ。高級ニット生産で世界的に有名な場所だ。

その視察を参考に、彼女は質の高い商品で勝負することを決めた。手編みのカーディガンを作るのに大いに手間がかかる。編み手に十分な対価を支払っていくためには、品質を追求し、それにみあった価格設定にする必要があった。

漁師の町・気仙沼では編み物は人々にとってなじみが深い。漁に使う網の修繕など「編む」という行為はずっと身近にあった。より質の高い商品を作るため、御手洗氏は編み手と共に、毛糸を一から開発し、デザインは人気編み物作家の三國万里子氏に依頼した。また、顧客にとっての「手編みのうれしさ」を大切にするため、生産はオーダーメイドにしている。

「お客様からのメッセージを御手洗さんからもらって、どんな方なのか考えながら編んでいます」と編み手の一人の小山百合子さんは言う。「お客様にお手紙を書くこともあるんですよ。カーディガンを編んでいる写真をお送りすることも」

持続可能なビジネスへ

御手洗氏はまず、編み物のワークショップを開き、編み手と出会うことから始めた。

受注開始は12月だったが、「まずは丁寧にできるところから」と小さなサイズからスタートさせた。最初に募った注文は、カーディガン5着分。値段は一着税込147,000円と高価だが、申し込みは100件近くあった。

3月に募集をかけた第2回の受注でも、9着分の募集に対して予想を大きく上回る注文が集まった。

御手洗氏は言う。「気仙沼はグローバルな土地です。来てびっくりしました。遠洋漁業で海をぐるぐる回ってたからなのでしょう。海外に抵抗がなく、海の外とつながることをとても自然にとられているように感じます」

御手洗氏は、気仙沼ニッティングを持続可能なビジネスにしていきたいと言う。そのためには、顧客によろこんでもらえる質の高い商品を作り続けていくことが重要だ。

「近いうちにこのプロジェクトを糸井重里事務所から独立させ、会社にする予定です。3年以内には、地元の人が自分たちで運営できる会社にしたいと考えています」と彼女は言う。

そのためには「市場から考える」という姿勢が求められると御手洗氏は考えている。「作れるものを作る」ではなく、「人々が本当にほしいを思うものを作る」会社でありたいのだと言う。

編み物を通した支援

気仙沼ニッティングは、自宅兼フラワーアレンジメント教室が津波で流された小山さんのような人が、また光り輝く場になった。

「編み物プロジェクトについて聞いたとき、救われる思いでした」と、小学生の頃から編み物をしている小山さんは言う。「震災一年目の冬は支援していただいた方々へのお礼に手袋やマフラーを編んでいました。手袋を編むワークショップがあると伺って飛びつきました」

ワークショップ終了後、御手洗氏から、気仙沼ニッティングでカーディガンを編んで欲しいと依頼され、小山さんは快諾した。

もう一人の編み手の田村純子さんは、餅屋の自宅が津波で流された。編み物の仕事の依頼が来たときには、ためらいなく引き受けた。

Kesennuma

田村さんもまた、小学生のときから編み物をしていたという。

「気仙沼の女性にとっては、編み物は親しみのあるものです。漁師さんや奥さんが、破れた網を編んで修繕していましたし、編み物はずっと私たちの身近なところにあったのですね」と田村さんは言う。

作り手が楽しんで作っているということも、気仙沼ニッティングが大切にしていることだ。

「私たちが作りたいのは、『雇用』だけではありません。この仕事を通じて、編み手の方々の日々の生活の中に、『よろこび』や『誇り』を作っていきたいんです」と御手洗氏は言う。

Produced by The Japan Times